佐賀県、虹の松原

野宿ツーリングをはじめた頃、ずいぶん昔の話。

場所などどこでもよかった。

夕暮れまで走って、テントを張って、飯を焚き、シュラフで寝る。

ただそれだけでよかった。

 

その日は、九州北部の砂浜でキャンプとなった。

何事もなく夜を迎え、そして朝を迎えた。

テント越しに朝の気配が差し込む。

ふと、耳を澄ますとテントの外で微かな物音。

次の瞬間、刃物の先端のようなものが、テントの裾を「スー」っと撫でていく。

一人ではない。テントの周りに数人いるようだ。

わずか数秒だろうが、何分にも感じた。

覚悟を決め、ドライバーを片手に、テントのジッパーを引きちぎるようにハネ開けた。

 

次の瞬間、数羽のサギ(のような鳥)が一斉に飛び立っていった。

握りしめたドライバーを見つめ、独り苦笑い。

 

あれから35年、未だ思い出しては苦笑い。